境界性人格障害

概要
境界性人格障害(境界例あるいはボーダーライン・パーソナリティー障害:BPD)とは、ものすごく感情的で情緒の不安定さがあり、衝動的で激しい怒りが突発的に生じ、極端で逸脱した発言や行動が出る状態です。それに加えて焦燥感、底なしの空虚感、孤独になることを恐れることによる人間依存、抑うつなどが多発的に起こります。気分のいい時は元気で明るい感じをみせることもありますが、気分が暗転すると不機嫌さを爆発させ、物を壊したり何かに当り散らしたり、あるいは人を見下し、汚い言葉を吐いたりケンカ腰になったりすることがみられます。本人がこれを認識している場合もあり、その場合は相手に事前に「いま私は虫の居所が悪いから話さない方がいい」と忠告してくれる場合もあります。多くの人に自罰行為や自傷行為や自殺企画がみられ、自分自身の存在価値について常に悩んでいます。
情緒不安定パーソナリティ障害と重なる部分が多々あります。





人格の状態・傾向

対人関係
過激あるいは逸脱した不安定な人間関係をつくることが多く、友人だか知り合いだかわからないような人たちが周りにたくさんいます。異性関係は派手で、付き合った人の数は何十人もいることが多く、二股三股など同時期に恋人を何人も抱えたり、または一度限りの関係をもつこともしばしばです。このように人とすぐに親密になる一方で、相手の怒りを引き出してしまうために人とトラブルを起こしやすくもあります。
相手と仲が良くなったかと思えば、ちょっとしたきっかけから交友関係をすぐにリセットし、そうしたことを何度も繰り返します。そのため人との関係が長続きせず、長期的な交友関係や恋愛関係をもつことがほとんどありません。
ただ、初対面の人や知り合ってから日が浅い人に対しては、不自然さを感じさせるくらい丁寧な対応をしたりします。

対人行為
相手に無力感を与えるような行為をします。これは自分の中にある無力感を投射したものです。また、相手から怒りを引き出してイライラさせたり、怒らせて相手の方から人間関係を切るように仕向けたりします。

自分に対して(自分との関係)
自己評価はものすごく低く、自分の存在価値について常に疑問を感じて悩んでおり、価値があるのか無いのかをつねに考え、苦しさが高じてくると、生きてきた過程や生き方を自らクリアします。思い出を捨ててしまいます。そのためこれまで積み重ねてきた長期の人生観や人生経験が失われてしまいます。そのため、一般の人であればできる「これまでの経験から学ぶ」といったことを不可能にさせてしまうのです。


精神状態・心理状態

不安定さと過敏さ
常に気分不安定で、見捨てられ不安があるために、人に気に入られるように誰にでも話を合わすことができる変幻自在の自分をつくりあげています。通称カメレオンと言われ、誰にでも合わせられる愛想(愛嬌)の良さ、誰でも虜にする魅力(雰囲気)をもっています。しかし一方で相手に何でも合わせるので「自分の無さ」が目立ちます。
また、感度の高い指向性アンテナ、非常に鋭い感受性をもち、相手を瞬時に見抜くほどの過敏さをもっています。
しかしながら、自分は愛されていないという思いが根底にあるので、相手から別れを言わせるように仕向けて、それが成功すると「ほら、やっぱり自分は愛されてなかったんだ」ということを確認し安心する、ということをやったりします。

空虚感・焦燥感
空しさとは比べ物にならないくらいの「底なしの空虚感」があり、自分が生きているんだということを確認するために自傷行為をします。
また焦燥感もものすごく感じており、常に焦りを感じています。

スプリッティング
相手を「全て良い」か「全て悪い」かのどちらかで判断するスプリッティングをおこないます。そのため、相手に対する評価は良いか悪いかしかありません。まあまあいい人とかいった評価はないのです。しかもこの評価は一瞬で変わります。さっきまで神様のように評価してした人を次の瞬間にはクズみたいに評価したりします。この背景には二極分化思考があるためです。いわゆる白黒思考とか0-100思考と呼ばれるもので、段階的に物事を見たり判断することができません。
自分自身に対しては「解離、分裂」をおこなっています。良い自分と悪い自分が統合しておらずに分裂しているために、よい自分しかいない状態か、あるいは悪い自分しかいない状態になります。


構造

境界状態 (境界人格構造)
境界性人格障害をつくる概念として「境界状態(境界人格構造)」と呼ばれるものがあります。境界状態とは自閉環境をつくれないために自我境界が曖昧で、心の中から秘密が漏洩してしまう(秘密を保持することを難しい)ために、分かってもらいたい気持ちと分かられたくない気持ちとがぶつかり合って葛藤が起こり、原始的防衛に頼らざるを得ない状態です。そのため周囲の人とトラブルを引き起こすことが多くなります。また、原始的防衛を発動するために自己愛パーソナリティ障害の状態を伴って場合が多く見られます。

原始的防衛
原始的防衛とは自分を防衛するために理性や意志を経由せずに怒りを出したり、相手を突然拒絶するなど直接「行動化」してしまうことです。そのため、周りにいる人たちは本人がなぜ急に怒り出すのか、急にひどい対応をするのか分からないといった状態になります。

基底欠損
境界性人格障害の根底には基底欠損(きていけっそん)がみられます。詳しくは基底欠損の項目をご覧ください。


治療に際して

見捨てられ不安
治療上、患者さんは治療者が自分から離れて行ってしまう、あるいは消えてしまうといった「著しい不安」や「見捨てられ感」を抱く場合があります。その場合、頻繁に電話をかけてきたりする場合があります。